HELLO WORLD

君の名は。」をきっかけとして「それ系」の企画が通るようになり、3年が経って、完成したものが次々に公開される。今年はそんな年になっていますね。この「HELLO WORLD」も多分にその要素を含んでおり、予告編の映像を見た限りでは「違い」を見出すことができませんでした。
そんな訳で、昨今の新海作品とは波長が合わない私はパスしようかとも思っていたのですが、脚本が「正解するカド」の野崎まどさんと知り、SF要素が強いというウワサも目にしたので、観にいくことにしました。
 
これ、私のための中二映画です。楽しかったぁ!
 
ネタバレをすると勿体ないので詳細は書きませんが、自分が中高生の頃、友達と「実はこの世界は…」とか「目の前のものが…」なんて妄想しながら話していたことが、作品世界の中に見事に練り込まれていて、こそばゆくなりながらもワクワクで頬が緩んでしまいました。身も蓋もなく書いちゃうと、昔の新海誠さんの古典SFっぽさと、昔の細田守監督の爽やかSFものっぽさの融合。監督の伊藤智彦さんは、(今のところ)作家性を見せることよりも、あくまで観客が面白いと感じるものを提供することに注力しているようにも感じられ、そこに野崎さんのクセのある物語がうまい具合にハマって、バランスがとても良かったです。
サイバー空間の描き方は、伊藤さんがこれまでに担当された「サマーウォーズ」、「ソードアート・オンライン」の延長線上で、目新しさという意味では今一つでしたが、このお話の本質はそっちではないので、すっと理解できることで見ている側の処理能力をメインストーリーに集中させてくれる利点もありました。
理解できる、という点では、話の運びが物凄く丁寧なのも好印象。昨今は「何度も観て理解する」や「全部を描かず、想像する余地を残す」作品が評価される傾向にある中で、この複雑な物語構造を初見で理解させ、その理解がカタルシスにつながるようになっているのが本当に素晴らしいです。特に、セリフやシーンの枝葉で引っかからないように気を使っているなと思った一例をあげると、直実と瑠璃が大量の本を荷車で学校に運ぶシーン。普通にそれを描くだけでもいいところに、「宅急便だとお金がかかる」というセリフが入っているんですよね。それがシーンのための言い訳であっても、一言あることで余計な詮索が不要になる。そういった丁寧さを随所に感じました。
 
それと、作画。3DCGによる2Dアニメ表現は年々進化しているとはいえ、堀口悠紀子さんのキャラクターをCGにしようとチャレンジしたことにも驚きました。さすがに堀口さんの曲線を完璧にモデリングすることなんてできないし、100%その魅力が表現できているかと言われるとそうは思いませんでしたが、2D、3Dを意識することなく全編整っていて、可愛らしさがちゃんと出ており、違和感を感じることはほとんどありませんでした。
 
心に突き刺さるような重たいインパクトはないけど、同じ波長の人に「面白いよ」と勧めたくなる、そんな良作だと思います。