スクールアイドルミュージカル

ミュージカルが好きで、プロジェクトとしてのラブライブ!が好きな私にとっては「とうとう来たか!」と思えたラブライブ!初のミュージカル作品。
東京公演の評判も良く、これは1回だけじゃ足りないかもしれないと思い、1/25の大阪初演と1/27公演の2枚を購入し、観劇してきました。

 

 

まず私が一番意外だったのは、正統派ミュージカル作品としての土台がものすごくしっかりしていたことです。近年、舞台演出に映像を取り入れたり、2.5次元が流行ったりして、舞台の見せ方に様々な工夫が行われるようになってきていますが、場合によってはそれが「誤魔化し」に見えてしまうおそれがあります。しかし、本作は昔ながらの舞台装置と照明だけで工夫して舞台を作り、そこで役者さんが演技をし、歌を歌うという、とてもベーシックなフォーマットで勝負していました。

 

そしてもうひとつ、最後に客席からペンライトを振って応援できる一幕があるのですが、この前に物語は一旦終わり、なくても成立するものになっています。つまりここでも正統派ミュージカルとしての格式を大切にしていて、基本から外れるものを外に追い出しているんですよね。それでいて、決してそれ以外を下に見ているのではなく、観客を楽しませる、というエンタテインメントの基本精神のもと、物語と地続きでライブを行うという解決策を取っている。ここがものすごく考えられているなと思いました。観客が物語の中に入ってライブに参加する感覚はちょっとだけ、「リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!! 学校祭ライブ中止の危機からの脱出」を思い出したり……。

 

また、その演技・歌唱においても、例えばアイドル出身だから、と贔屓目に見る必要は全くなく、少なくとも不安・不満を感じるようなことは一切ありませんでした。メインキャスト10人全員が役を理解し、自分のものとし、それを表現するところまで、稽古を重ねられていたことが伝わってきました。そして2人の理事長、そしてアンサンブル8人の実力が驚くほど高く、これが作品の引き締めにものすごく貢献することで、全体としての完成度をより高めていたと思います。

特にこの作品において、アンサンブルがいないと物語として成立しないかというと、決してそんなことはないんですよね。理事長会議のシーンも2人で作れない訳じゃないし、その他のシーンもちょっと変えれば10+2人の舞台として作ることができる。でもアンサンブルメンバーがいることで、「やりたいことに向かってどれだけ頑張っていても、選ばれない人もいる」「やりたいことが見つからない人もいる」という一面が見え、それが物語の厚みを増すことに繋がっていると感じました。他のラブライブ!作品では、メインキャラ以外に「応援する」という解決策を提示している訳ですが、それが唯一じゃないよね、というアニメ陣営への投げかけとも言えます。

 

そういえば、グッズにキャラ絵のものがほとんどない、イラストベースのキービジュアルがないというのも斬新ですね。ここからも、制作陣があくまで舞台作品であることに拘っていることが伺えます。

 

 

さて、ストーリーの概要は公式を見れば分かるので割愛しますが、重要なのはμ's以前の物語になっていて、ラブライブ!エピソード・ゼロとでも言うべきものになっていること。大会としての「ラブライブ!」はまだ生まれていないのでタイトルに「ラブライブ!」を冠していないということがわかります。
それでいて、

  • 憧れから始まる
  • やりたいことを見つけたら全力
  • 動き出すことで何かが変わる

というラブライブ!シリーズの基本をきちんと押さえ、そこに幼馴染要素やアイドル好きキャラといった「らしさ」を織り込んで、ファンが見ると「これはラブライブ!だ」と感じるようになっています。
新しいのが2校対立の構図でしょうか。ここに理事長と娘の関係×2と理事長同士の関係が入ることで、既視感を払拭し新しい物語として成立させています。また、単純に2校分の制服があることで、ビジュアル的に見栄えがする効果も生んでいました。

 

そんな中で私が一番好きなのは、「スクールアイドル」という概念が誕生した瞬間のシーンです。職業としてのアイドルではない、ラブライブ!ならではの部活動としてのアイドル活動。将来につながるか、周りにどう評価されるかなんて実は関係なく、今アイドルをやりたいから、事務所に所属したりオーディションを受けるのではなく、部活動として今この瞬間からアイドルをする。こうして書きながら思い出しただけでも涙が出てきそうになるぐらい、このシーンでの叫びには感情がこもっていて、まばゆい輝きに心を打たれました。

 

楽曲はミュージカル作品の中でもかなり多め。そこは歌より芝居にした方がいいんじゃないか、より全体として緩急がつくのではないか、と思うようなシーンもありましたが、芝居が増えると退屈に感じるケースもあるのでそこは好みの問題かも知れません。ライブ向けのもの以外にも、いかにもミュージカルナンバーな楽曲が多数あり、滝桜のテーマやきらりひらり舞う桜等、リプライズも効果的に使われていて、ミュージカル初心者の方もミュージカルってこんな感じか、と新鮮な感動を覚えられたのではないでしょうか。

 

もちろん、すべてが最高で満点という訳ではありません。しかし、「ラブライブ!」を初めてミュージカル化するにあたり、商業的な観点よりも作品としてとにかく良いものを作ろうとしている真摯な気持ちが伝わってきて、そこがとてもいいな、と感じました。

 

 

ただ残念ながらその結果として、お客さんの入り具合を見る限り、商業的には厳しかったんじゃないかという印象を受けたのも事実です。キャパ1,900人の梅田芸術劇場で平日4公演、週末4公演というのはかなり思い切ったことをしたなと思います。私が観た回は、連番以外は間1席空ける形であったにもかかわらず、両公演とも2階、3階全部と1階後方ブロック全部は空席でした。春休み、夏休み、GWにかかるならともかく、完全にド平日ですからね……。いやホント、最初に梅芸でやると知ったときは、会場おさえる人がシアター・ドラマシティと間違えたのかと思いましたよ。

結果は結果として受け止めつつ、ぜひ、ぜひ、これで終わりにするのではなく、これから裾野をもっともっと広げるべく、ラブライブ!ミュージカルが作られることを強く願います。

 

そして私の個人的想いとしては、いつの日か、全く新しいキャストで、μ'sの物語を舞台で観てみたいと思っています。

 

ともあれまずは全公演、病気、怪我なく無事走り抜けられたことが何よりかと思います。皆様、本当に本当にありがとうございました!