高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの

このままだと、3連休は「進撃の巨人」28巻一気読みだけで終わってしまいそうだったので、東京国立近代美術館で開催されている高畑勲展に行ってきました。

いや、これは予想を遥かに上回る素晴らしい展覧会でした。

まず最初のところで、篠山紀信さんが撮影された高畑さんの大きな写真が展示されているのですが、それが本当にそこにいらっしゃるような見せ方になっていて、それだけでも涙が出そうになります。

基本的な構成は、最初に年表で、遺作となった「かぐや姫の物語」から過去に向かって高畑さんが手掛けた作品を一気に紹介し、彼が強い影響を受けた「やぶにらみの暴君」を経て、東映動画時代から今度は年代順に、「かぐや姫の物語」までを1作品ずつ丹念に辿っていく形式。

何となくジブリ中心かと思っていたら全くそんなことはなく、「太陽の王子ホルスの大冒険」にかなりのスペースが取られ、世界名作劇場の作品群はもちろん、「じゃりン子チエ」なんかもきちんと取り上げられていて、高畑さんの足跡が分かりやすく伝わるようになっています。

そして、高畑さん自身が絵を描かない代わりに、展示されているモノが本当にすごい。宮崎駿さんの生レイアウトがあるのは当然として、しれっと「なつぞら」ファン向け(?)に小田部羊一さんと奥山玲子さんのキャラクターデザイン案が並べられているし、当然、大塚康生さんや近藤喜文さんの原画やデザイン画も展示されています。
そして何よりも印象に残ったのが美しい背景画の数々。井岡雅宏さん、椋尾篁さん、男鹿和雄さん、山本二三さんといった方々が描かれた自然や海外の町並みの美しさは、それだけを部屋に飾っておきたくなるぐらいの素晴らしさでした。これらがアニメーションの背景として使われる際に劣化してしまうのが本当に惜しい。販売されていた展覧会の図録でもその良さは表現しきれておらず、本物だけが持つ絵の力がそこにありました。
それ以外にも、「アルプスの少女ハイジ」の絵コンテが富野由悠季さん担当回のものであったりとか、見どころが沢山。

また、絵そのものが展示の中心ではないため、宣伝用のポスターのようなものはほとんどなく、全体的にレイアウト、原画や作画修正、生のセル画が多くを占めており、アニメーションがどれだけ細かな作業で作られているのかが伝わってくるのもすごく良かったです。逆に言うと、動画用紙程度の大きさの鉛筆画がほとんどを占めていることで、自分の絵力のなさをまざまざと思い知らされました。

音声ガイドは「なつぞら」で高畑さんをモデルとしたアニメ演出家、坂場一久を演じた中川大志さん。大塚さんや小田部さん等へのインタビューも収録されていて、これも楽しかったです。

祝日の午後としては、並ぶほどではなくちょっと混んでいるな、という程度。約3時間でじっくり回ることができました。

それとこの展覧会、チケットを買うとこの高畑勲展だけでなく、東京国立近代美術館が所蔵している作品、MOMATコレクションの展示も見ることができるのですが、これも見て大正解。普段なかなか美術館に足を運ぶ機会がないので、「ついで」であっても、本物の絵を目にできる機会が得られ、特にサイズの大きな作品はかなり見ごたえがありました。

おすすめです。

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高畑勲